http://flyfromrjgg.hatenablog.com/entry/flight_report_arj_eu6680
2016-08-19
中国の国産旅客機「ARJ21」搭乗記【MRJのライバルになる日は来るのか】
エコノミークラス搭乗記中国
成都航空での初就航から1ヶ月半
2016年6月28日、中国初の国産リージョナルジェット機ARJ21-700(以降、必要ない限りARJと略)が悲願の就航を果たしました。運航したのは
成都航空という四川省成都を拠点とする航空会社、路線は
成都から上海でした。
就航当初からARJは成都-上海虹橋間で週3便(火、木、土)の運航を行っていました。就航から1ヶ月ほどたった
8月初旬の時点で存在する機体(試験機除く)は1機のみ(のはず)。新造機はトラブル等で欠航することが多いのですが、Flight Radarで見ると特に大きなトラブルなく運航していることを確認できていました。
もしかしたらもう行ける?
就航当初からARJに乗ろうと思っていた僕は、何となくうまく行く予感がし始めました。ベトナム航空のA350に乗りにハノイまで行った時は、まだ1機しか納入されていない状態で、直前に機材変更に遭った苦い思い出がありますので、やはり慎重になってしまうんですよね。確実に乗ろうと思ったら、2~3機納入され、運航も安定した頃に行くべきです。張り切って行ったはいいものの「乗れませんでした」では腹が立っちゃうばかりですからね。しかし、ARJに限っては新造機にも関わらず、しかも1機のみの状態で、もうGO AHEAD状態になってしまったわけです。少なくとも僕の眼にはそう映りました。
ARJってどんな飛行機?
ARJとは。まずはそこから解説します。後から色々と解説していますがここで簡単に紹介しておきます。ARJはこんな飛行機です。
ARJは正式には
ARJ21-700と呼び、中国の
COMAC(Commercial Aircraft Corporation of China:中国商用飛機)が開発したリージョナルジェット機です(実際はCOMAC設立以前より開発)。意外や意外、
中国初の国産ジェット旅客機です。中国は戦闘機は独自開発をしたことがありましたが、旅客機については初めてです。以前、ボーイング707ベースのY-10という旅客機を開発しようとしたことがありましたが、途中で断念していますので、ARJはそれ以来の悲願達成ということになります。
見た目からもわかる通りARJは小型機です。
オールエコノミークラスで90人乗り、ファーストクラスとエコノミークラスの2クラス制で78人乗りの旅客機です。ARJ21という名前はAdvanced Regional Jet for the 21st Centuryが由来と思われ、後ろの700という数字は、2クラス制で70人(台)乗りを意味しているものと思われます。
出発は上海虹橋空港から
ARJ初搭乗の出発地である上海虹橋空港に到着しました。
同日のセントレア7時15分発の春秋航空に乗り浦東には8時半に到着。そしてそこからバスに乗って虹橋空港に到着したのはキッカリ11時でした。途中ひどい事故渋滞に遭い、「空港間の移動時間不足」という別のリスクが顕在化しましたが、何とか切り抜けることができました。
僕の乗る便は
成都航空EU6680便、13時10分発です。
成都航空はカウンターBでのチェックインとなります。中国東方航空、上海航空のチェックインカウンターを使用しています。
出発まで2時間ほどありましたので、ラウンジへ…と行きたいところでしたが、成都航空はアライアンスには入っていません。しかも成都航空のARJはオールエコノミークラスの設定です。僕にはラウンジに入る術がありませんでした。なので空港内をウロウロしていました。
ARJ21ー700に初めて出会う
そろそろ出発だということでバスラウンジに降りると、、、き、き、気が付きました。遠くからでもすぐにわかりました。
あぁぁぁーーーっ、ARJいたー!
メラメラする陽炎の向こうにB-3321の登録記号(レジ)を持つ本物のARJがいました。実は疑っていたところがあるんですよね。
「本当はARJなんてこの世に存在しないんじゃないか」って。中国以外のソースからARJ情報が入ることはありませんから、自分の眼で見るまでは信じられなかったんです。しかし遠くにいるARJをレンズ越しに見て、僕はやっとARJの存在を信じることができました。この後乗れるかどうかは別物として、この世にARJという旅客機が存在し、ちゃんと上海まで飛んできていることが確かめられたわけです。
さぁ搭乗が始まりました。まずはバスに乗ります。こういう大事な場面でバスでのボーディングは嫌いです。バスから降りて機体を外から撮ろうとすると機内に一番に入れず、機内に一番に入ると機体を外から撮れません。バスでのボーディングではこのジレンマと戦わなければいけないんです。難しい決断を迫られます。どちらか天秤にかけると、「機体の外からの写真」に軍配が上がったため、まずは外から撮影し、機内に入るのを若干遅らせることにしました。
機体へ向かうバスの中から撮影。まもなく機体に到着です。初めて乗る機体ですのでいつも以上にドキドキしますね。
MD-90のライセンス生産から独自開発へ
ここで。
ARJのT字尾翼にリアエンジンという格好は何かに似ていませんか?そう、
MD-80、90シリーズです。DC-9から受け継ぐあの形です。もちろん
顔だってMD-90にそっくりですよね。
それもそのはず、
ARJはMD-90のライセンス生産施設を利用して作られた旅客機だと言われているからです。上海航空機製造が過去にMD-90のライセンス生産を行っていてその施設を利用して作られたとされています。ただし、翼やエンジンはMD-90よりも小ぶりであり、全長もMD-90より30%程度短くなっています。
DC-9で言うと初期型の10型と同じくらいの長さです。
また、MD-90と異なる大きな特徴としてウィングレットが付いていることが挙げられます。マクロには同じに見えてもミクロには違う。ライセンス生産で培った技術を使い、中国の独自生産へとシフトして行った様子が機体形状からもうかがえます。
乱暴に言ってしまえば
MD-90のパクリなんですが、MD-90は少し古い機体なので、全てをパクっているわけではありません。様々な部分で新しい技術を使っています。
中国新幹線に乗った記事を書いていても感じたのですが、
中国ってなんだかんだ言って凄いです。
最初はパクっても最終的にはちゃんと自分のものにしちゃいますから。単なるパクリと言ってしまったらそれはきっと間違っています。設計図が既にあるライセンス生産と、一から自前で作るのには全然違いますよ。特に飛行機のようなノウハウのいる大型製品はそう簡単にはマネできません。
1機丸ごと飛行機を作るにはライセンス生産以上のノウハウが必要です。それを中国は徐々に徐々に身に付けていたんです。ライセンス生産で力を付け、独自開発までこぎつけたのが中国新幹線でありARJなんだと僕は考えています。もはや中国を侮れません。
ただ弱点もあります。ARJの型式証明(TC:Type Certification)は、FAA(アメリカ連邦航空局:Federal Aviation Administration)やEASA(欧州航空安全機関:European Aviation Safety Agency)の型式証明に準拠していないため
世界の空を飛ぶことができません。中国国内または中国の型式証明が通用する国での運航のみとなってしまうところが残念なところでもあります。他のリージョナルジェットを製造する各社がライバル視しないのはその点にあります。
将来的にARJがFAAと同等の型式証明を取れるのか、取るつもりがあるのかは定かではありませんが、もし世界の空を飛ぶことができるようになったら、その安さが魅力となることでしょう。カタログ価格で三菱のMRJよりも3~4割ほど安いとされています。後述しますが、機内装備や乗り心地については他の航空機と大差がありませんので、ARJにも勝ち目はあるように思います。MRJを持つ日本もうかうかしていられませんよね。(中国国内だけでも300機ほど受注済)
座席は2-3配置
搭乗してみると、キャビンはピカピカで就航後1ヶ月半しか経っていないことを物語っていました。
横2-3の5アブレストが後ろまで続き、数えると18列あります。列数こそ違うものの座席配置はMDシリーズと同じですよね。
合計で5×18=90席になります。これがモノクラス設定で、写真で言うと上の図です。前方にファーストクラスを設けると下の図のように78席仕様となります。2016年8月現在、ARJは成都航空でしか運航されていないため、90席仕様しか存在しないことになります。
エンジンの真横の席になると、エンジン音がうるさ過ぎて座る気になりません。僕が座っている16Aも結構エンジンに近いので同じようなものかも知れませんが、17、18列目はエンジンまで1m以下の距離ですのでうるささがハンパないと思います。
実際も17、18列目には乗客をアサインせず、クルーが使用していました。何故か整備士らしき人2名も乗っていまして、彼らは17列目に座っていました。上海での整備に整備士を乗せていく必要があるんでしょうか?(聞こうと思い話し掛けましたが英語が話せず断念)。飛行中も17列目、18列目でクルーが休憩していました。中国のエアラインはお気楽なもんです。
離陸上昇性能はいかに
飛行機は定刻よりも25分遅れて出発。中国の国内線はとにかく遅れることで有名です。
ARJの性能についてですが、
加速が非常に良かったのが印象的でした。体がシートにグッと押し付けられたかと思うと、短い滑走距離で緩やかに前輪を上げ、みるみる上昇して行きました。
上昇性能も抜群って感じですね。かのMDシリーズも急上昇が得意ですので、上昇性能までMDシリーズの血を引いているようにも思えました。
ただ、後方座席に座ったこともあり、
エンジン音がとてもうるさいと感じました。あわせて
「シュー」という空調の音も大きく、後方のキャビンに限ってはお世辞にも静かとは言えない環境でした。まるでターボプロップ機にでも乗っているかのような音と振動がありました。エンブラエル170やボンバルディアCRJなどの同サイズのリージョナルジェットに比べると、騒音レベルは大きいと感じます。まぁ
エンジンに近い後方座席に限った話かも知れませんが…。前方座席に座っていたら印象も変わっていたのかも知れません。
ベルトサインが消えたので早速機内の撮影開始です。
2-3配置とあってキャビンは他のリージョナルジェットに比べて広く感じました。要するにMDシリーズですからね。そりゃ他よりも広いわけです。同サイズの競合機としては、カナダのボンバルディアCシリーズのCS-100が2-3配置をしています。リージョナルジェットは2-2配置が主流ですので、2-3配置のARJはそれらより横1席分胴体径が大きいわけです。
機内サービスについて
ARJそのものとは関係がありませんが、ARJの上海虹橋-成都線で受けた機内サービスを紹介しておきます。まずはドリンクサービスから。
中国国内線全てについて言えるかどうかはわかりませんが、この便では機内食が出ました。
大きな箱にはフルーツとサラダが入っていました。サラダはトマトと鶏肉と糸こんにゃくみたいなヤツでした。味は悪くなかったです。いや、美味しかったです。ちょっと独特の味がしましたけどね。
食事が終わるとミネラルウォーターが配られます。3時間程度のフライトではこれくらいのサービスがあると助かります。
ちなみに
キャビンクルーは4名が乗務しており、90人乗りのジェット機(通常2名)にしては多い印象でしたが、皆フレンドリーで、一部英語が通じないクルーがいたものの、意思疎通に困ることはありませんでした。クルーにカメラを向けると「綺麗に撮って下さいね」とリクエストをされるほどでした。
僕が
「日本からこのARJに乗りに来た」と言うとびっくりしていました。
「それでさっきから気合い入れて写真撮ってるのねー!」と合点が行った様子でした。
ARJの機内装備について
中国初のジェット旅客機と言えども、
機内の装備に目立った特徴はありません。
窓のサイズは普通です。大きくもなく小さくもありません。
上の読書灯もコールボタンもスピーカーも至って普通です。
トイレも標準的。銘板を見るとやはりジャムコ製(日本製)でした。
機内装備は総じて普通ですが、世界標準に比べると優れる点もなければ劣る点もないため、いい意味で
ARJは非常に受け入れられやすい旅客機と言えます。誤解を恐れずに言えば、中国国産という怪しさは全くなく、国産であることを言われなければ絶対に気付きません。しかし、そこが怖いところです。
標準的であるが故、世界を飛べることになったあかつきには売れちゃう可能性があります。
シートポケットには機内誌としおりが入っています。いや、これ、機内誌じゃないんです。ARJの特集誌なんですよ。最初から最後までほぼ全てARJについて書かれています。
これ一冊で売ればそれなりに売れるんじゃないかと思うくらいのボリュームです。残念ながら中国語のみのため理解するのには苦労します。何となくはわかりますが、詳細を理解するには相当の中国語読解能力が必要でしょう。
実はクルーに「到着してからでいいので、コックピットを見せてもらえませんか」とお願いしてみたのですが答えはノー。ちょうどいいところにコックピットの写真がありました。ARJのコックピットは5面の縦長ディスプレイのグラスコックピットです。MD-90とは全然違います。この辺りはさすがに現代の旅客機といえます。
コックピットのシステム(アビオニクス:航空電子機器)についてはRockwell Collins(ロックウェルコリンズ)のものを採用しています。中国の国産ジェット旅客機と言っても少なくともエンジンとコックピットは米国製ということになり、
航空機の要の部分では輸入に頼っていることがわかります。この辺りは三菱MRJでも同じですよね。MRJのエンジンはP&W(プラット&ホイットニー)製、アビオニクスはARJ同様にRockwell Collins製です。MRJにおいても「7割を輸入に頼っていて純国産と言えるのか」という厳しい指摘がありますが、ARJでも全く同じことが言えるわけです。
コックピットは米国製と聞いて何だか安心してしまうわけですが、コックピットをインテグレートするには結構なノウハウがいるはずです。さすがに中国もそこは独自開発を断念したわけです。航空機の最も複雑な部分ですからね…。
成都に無事到着
上海から成都までは
時刻表上で3時間25分のフライトです。離陸から着陸までの実質のフライト時間は2時間40分程度です。成都は中国の中でもかなり西にありますから、飛行機でも3時間くらい掛かるんです。距離は直線距離で1,600km、約900NMです。
成都の街を左手に見ながらRWY20Rに向けてアプローチします。成都なんて単なる地方都市だと思っていたのですが、窓から見ると相当大きいですね。
人口は1,400万人以上と言われていますのでそれはそれは大きな内陸都市です。
東京都の人口よりも多いんですよ。中国には人口1,000万人級の地方都市がわんさかありますので、日本の感覚で地方都市なんて言ったら怒られちゃいそうです。
アプローチスピードは非常に速いと感じました。車高が低いからかも知れませんが、すごい勢いで滑走路に突っ込むような感じがしました。突っ込むなんて言っても、もちろん主脚(後輪)から降りてますよ。飛行機が前脚から着陸したら確実に事故ります。
スポイラもビシっと立って一安心。何とか生きて成都にたどり着くことができました。
最後にクルーに集まって写真を撮らせてもらおうとお願いしたのですが、1人が「ワタシやめとくわ」と言ったため2人だけに…。丁寧にお礼を言って別れました。
降機してからも当然バスでの移動になるわけですが、バスが機体に近付き過ぎているので撮るのが難しいんですよ。全景を撮れる位置に移動できなかったので機首部のみ。機首部にはARJ21-700と書かれていますね。僕が最後に降りた乗客で、皆を待たせては申し訳ないと思ったので諦めてバスに乗りました。
バスの窓ガラスがひどく汚れていましたが、中から真横のショットをゲット。こう見るとARJって短いですよね。ずんぐりむっくりな感じが、スマートなMDシリーズのイメージとはやや異なります。最近のMDシリーズではB717(MD-95)が最も近いですが、ARJはB717よりも4m程度短いです。
バスがグルんとARJを回ってくれたおかげで特徴的な尾部を間近で見ることもできました。テイルコーンもMD-90のように平らになっています。エンジンはMD-90のものよりも短くて太いです。